「申請すれば、誰でも許可が取れる」
そう思っていませんか?
残念ながら、答えは「NO」です。
産業廃棄物処理法は、環境汚染を防ぐために非常に厳しい規制が敷かれています。そのため、行政(岡山県、岡山市、倉敷市)の審査も形式的なチェックにとどまらず、事業者の適格性を厳しく見極めます。もし不許可となれば、申請手数料(証紙代)は戻ってきませんし、何より準備に費やした膨大な時間と労力が水泡に帰します。さらに最悪の場合、「虚偽申請」とみなされれば、今後5年間は許可申請すらできなくなるリスクもあります。
1. 【人的要件の不適合】知らなかったでは済まされない「欠格事由」の罠
産業廃棄物収集運搬業許可において、最も絶対的かつ救済措置がない不許可理由、それが「欠格要件(けっかくようけん)」への該当です。
これは「過去に悪いことをした人、あるいは正常な判断ができない人には、ゴミを扱う資格を与えない」という法律上の絶対ルールです。
多くの事業者は「うちは犯罪組織じゃないから大丈夫」と考えますが、実は「うっかり」や「過去の小さな過ち」が命取りになるケースが後を絶ちません。ここでは、誰が対象になるのか、具体的にどのようなケースがアウトなのか、そして岡山県の審査でどこまで調べられるのかについて詳細に解説します。
「誰」が審査対象になるのか?範囲の広さに注意
まず、審査の対象となるのは「申請者本人(法人)」だけではありません。以下の人物全員が、欠格要件に該当していない必要があります。
- 法人の役員全般: 代表取締役だけでなく、平取締役、監査役も含まれます。
- 株主・出資者: 発行済株式総数の100分の5以上の株式を有する株主、または出資額の100分の5以上の額を出資している者。
- 政令で定める使用人: 本店や支店の代表者(支店長、営業所長など)。契約締結権限を持つ重要なポジションの人。
- 相談役・顧問: 登記されていなくても、実質的に経営支配力を持っているとみなされる人物。
【ここが落とし穴!】
よくある失敗事例として、「昔の役員が登記に残ったままだった」というケースがあります。何年も前に会社を辞めたはずの理事が、登記簿上では抹消されておらず、その人が実は別の場所で禁錮刑を受けていた……となれば、即座に不許可となります。申請前には必ず「履歴事項全部証明書(登記簿)」を取得し、現在の役員構成が実態と合っているか、連絡の取れない人物が含まれていないかを確認してください。
具体的な「欠格事由」のライン
では、具体的に何が「アウト」なのでしょうか。主な要件は以下の通りです。
- 禁錮以上の刑に処せられた者:どのような罪であれ、「禁錮刑」以上の判決を受け、その執行が終わってから5年を経過していない場合はアウトです。執行猶予期間中の場合も当然許可は下りません(猶予期間満了で直ちに許可取得可能になりますが、期間中は不可)。
- 例: 飲酒運転や人身事故による危険運転致死傷罪、詐欺罪、横領罪など。
- 特定の法律違反で罰金刑を受けた者:「罰金なら大丈夫」は大間違いです。以下の法律違反による罰金刑は、執行終了から5年待たなければなりません。
- 廃棄物処理法(不法投棄、無許可営業など)
- 浄化槽法
- 大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの環境法令
- 暴力団対策法
- 刑法(傷害、現場助勢、暴行、凶器準備集合・結集、脅迫、背任)
- 注意点: 建設業の社長様で多いのが、喧嘩による「傷害罪」や「暴行罪」での罰金刑です。これも5年間の欠格期間が発生します。
- 暴力団員および元暴力団員:現役の暴力団員はもちろん、暴力団員でなくなってから5年を経過しない者も許可を取得できません。
- 精神の機能の障害:成年被後見人や被保佐人として登記されている場合など、廃棄物処理業を適正に行う意思疎通ができないと判断される場合。
岡山県の審査における厳格さと「虚偽申請」のリスク
申請書には「誓約書」という書類があり、「当社および役員は欠格要件に該当しません」と誓約して実印を押します。
岡山県(および岡山市・倉敷市)の審査担当課は、提出された役員名簿に基づき、警察庁等のデータベースと照合を行います。ここで嘘(該当するのに「該当しない」として申請すること)が発覚すると、単に不許可になるだけでなく、「虚偽の申請をした」として、そこからさらに5年間、許可が取れなくなります。
「昔のことだからバレないだろう」
「罰金を払ったのは自分(社長)ではなく、平取締役だから大丈夫だろう」
このような甘い考えは絶対に捨ててください。
もし、役員の中に過去の賞罰について曖昧な記憶しかない人がいる場合は、正直に申告してもらう必要があります。
また、申請中に役員が逮捕された場合なども、速やかに相談が必要です。隠して許可を取ったとしても、後から発覚すれば「許可の取消し」処分となり、社名は公表され、建設業許可など他の許認可にも飛び火する大惨事となります。
【回避策のまとめ】
- 登記簿の整理: 実態のない役員は、申請前に辞任・退任の登記を行う。
- 正直なヒアリング: 全役員、主要株主に対して、過去5年以内の賞罰(交通違反含む)の有無を書面で確認する。
- 専門家への相談: 「この罪は該当するか?」と迷ったら、自己判断せずに必ず行政書士に相談する。
2. 【財務要件の不足】「赤字・債務超過」を放置した申請の末路
「うちは一度も不渡りを出していないし、銀行融資も受けているから大丈夫」
そう思っていても、決算書上の数字が基準を満たしていなければ、岡山県の審査は通りません。
産業廃棄物収集運搬業許可における財務要件は、「経理的基礎を有すること」と定義されています。これは、「事業を継続的かつ安定的に行うだけの資金力があるか」を問うものです。
廃棄物処理は、途中で業者が倒産してゴミが放置されると社会問題になるため、一般の商売以上に財務の健全性が重視されます。ここでは、どのような決算内容が「危険水域」なのか解説します。
財務審査基準:3つのステージ
審査担当者は、直近3期分の決算書(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)を見て、御社を以下の3つのステージのいずれかに分類します。
- 【安全圏】直近が決算黒字 かつ 資産超過(純資産がプラス)直近の事業年度で利益が出ており、かつ債務超過(資産より負債が多い状態)でなければ、そのまま申請して問題ありません。このケースで財務理由による不許可になることはまずありません。
- 【要注意】直近が赤字 または 債務超過(どちらか一方)利益は出ているが過去の借金で債務超過になっている、あるいは資産はあるが今期はたまたま赤字だった、というケースです。この場合、不許可にはなりませんが、「追加資料」が必要です。具体的には、「今後どのように経営を改善するか」を記した理由書や、今後の収支計画書の提出が求められます。自社作成の書類で通ることも多いですが、計画の妥当性は厳しく見られます。
- 【危険水域】直近が赤字 かつ 債務超過(両方アウト)これが最も不許可に近い状態です。「儲かっておらず、借金も返せていない」とみなされます。この状態のまま申請書を出しても受け取ってもらえません(受理されません)。しかし、即不許可というわけではなく、起死回生の手段が用意されています。それが「中小企業診断士等による経営診断書(経理的基礎を有することの診断書)」の添付です。
「診断書」があれば通るのか?その落とし穴
「診断書をつければいいんだな」と安易に考えるのは危険です。
この診断書は、中小企業診断士や公認会計士が御社の経営実態を分析し、「現状の数字は悪いが、これこれこういう理由で将来性はある。したがって産廃事業を継続する能力はある」と保証する書類です。
不許可になる(診断書が無効になる)ケース:
- 診断内容が薄っぺらい: 単に「頑張ります」「売上を倍にします」といった根拠のない精神論だけの診断書では、審査官は納得しません。具体的な受注見込み、コスト削減策、資金繰り表などが論理的に構成されている必要があります。
- 債務超過の解消見込みがない: どんなに甘く見積もっても、5年以内に債務超過が解消しないような絶望的な財務状況の場合、診断士も「適格性あり」のハンコを押せません。また、押したとしても県が認めない場合があります。
- 税金の未納がある: 財務要件の一部として、納税証明書の提出が必須です。法人税、消費税、県税などに未納(滞納)がある場合は、どれだけ立派な診断書があっても門前払いです。分納誓約をしていても、原則として「完納」してからでないと申請できません(※特例的な相談余地はゼロではありませんが、極めて厳しいです)。
新規設立法人(決算期未到来)のリスク
まだ1期目の決算を迎えていない新設法人の場合、実績がないため「開始貸借対照表」と「収支予算書」で審査されます。
ここで不許可(というか補正地獄)になるのが、「資本金と準備資金の過小評価」です。
例えば、資本金10万円で設立し、銀行口座にも10万円しかない状態で、「トラック(200万円)を購入して事業を始めます」と書いたとします。審査官は「その200万円はどこから出るのですか?」と当然突っ込みます。「社長が貸します」と言えば、「では社長の個人通帳の残高証明を見せてください」となります。
ここで資金の裏付けが説明できないと、「事業遂行能力なし」と判断されます。
【回避策のまとめ】
- 申請時期の調整: 決算直前で、今期が黒字になりそうなら、決算を終えて確定申告をしてから申請する(診断書費用を節約できる)。
- 診断士への早期依頼: 債務超過が確実なら、申請の1ヶ月以上前から中小企業診断士にコンタクトを取る。行政書士経由で、産廃審査に慣れた診断士を紹介してもらうのがベスト。
- 未納の解消: 税金の未納がある場合は、申請前に必ず完納する。
- 新設法人の資金計画: 資本金だけでなく、開業資金が手元にあることを証明できる準備をしておく。
3. 【施設・書類の不備】車両の適合性と整合性の欠如
人的要件も財務要件もクリアしているのに、最後の詰めである「施設(車両・容器)」や「書類の整合性」でつまずき、許可が下りない(あるいは大幅に遅れる)ケースがあります。
産業廃棄物収集運搬業における「施設」とは、主に運搬車両、運搬容器、そして駐車場のことを指します。これらが「運ぼうとする廃棄物の性状」に適していなければなりません。
また、提出書類全体を通して、ストーリーがつながっているかどうかも重要です。ここでは、実務で頻発するミスを解説します。
車両に関する不許可(不適合)リスク
「トラックなら何でもいい」わけではありません。車検証の記載内容と、運ぼうとする廃棄物の種類のマッチングが必須です。
- 土砂禁ダンプ(深ダンプ)の罠:車検証の備考欄に「土砂等運搬禁止」と書かれたダンプトラックで、「がれき類」「鉱さい」「ガラスくず・コンクリートくず及び陶磁器くず」を申請する場合、非常に警戒されます。これらは土砂と混同されやすいため、原則として土砂禁ダンプでは運べない(過積載のリスクが高いため)と判断されることが多いです。回避策: 「比重の軽い廃プラスチック類専用として使用する」と限定するか、積載可能な別の車両を用意する必要があります。
- 飛散防止措置の不備:平ボディのトラックで「汚泥(含水率の高いもの)」や「廃油」を運ぶ申請は、原則認められません。液状のものはタンク車やパッカー車、あるいはドラム缶等の密閉容器が必要です。また、固形物であっても、平ボディ車の場合は「シートがけ」「ロープ固定」などの飛散防止措置が具体的に示せなければアウトです。写真は、ただ車を撮るのではなく、シートをかけた状態や、容器を固定した状態を再現して撮影する必要があります。
- ディーゼル規制等の適合:岡山県内だけでなく、京阪神地区(大阪、兵庫など)へも運搬する場合、NOx・PM法の適合車であるかどうかが問われます。車検証の備考欄を確認し、適合していない古い車両では許可が下りないエリアがあることに注意してください。
「書類の整合性」が崩れると審査は止まる
行政書士として最も神経を使うのが、この「整合性」です。一つの書類と別の書類の内容が矛盾していると、審査官は疑念を持ちます。
- 住所の不一致:
- 登記簿上の本店所在地:岡山市北区〇〇 1-1
- 車検証の使用者住所:岡山市北区〇〇 1-1-101
- 納税証明書の住所:岡山市北区〇〇 1丁目1番地これらが微妙に異なっている場合(住居表示実施などで表記が変わった場合も含む)、それらが同一の場所であることを証明する書類(住居表示変更証明書など)がないと、修正を求められる場合があります。
- 駐車場の使用権原:申請書に記載した駐車場の場所が、他人の土地(賃貸)である場合、賃貸借契約書の添付が必要です。ここでよくあるのが、「契約期間が切れていて自動更新の条項がない」「使用目的が『資材置き場』となっており車両保管が含まれていない」といったケースです。これでは「車庫を確保していない」とみなされ、不許可要因になります。必ず大家さんから「使用承諾書」をもらう等の対策が必要です。
- 実現不可能な事業計画:「車両1台、運転手1名」の会社が、岡山県全域から毎日10トンの廃棄物を回収し、広島県の処分場まで運ぶ……といった、物理的に不可能な計画書を書くと、「実態がない」「名義貸しではないか」と疑われます。事業計画書(運搬量や稼働日数)は、保有するリソースに見合った現実的な数字でなければなりません。
岡山県特有の写真撮影ルール
写真の不備による「差戻し」は不許可ではありませんが、許可取得を数週間遅らせる要因になります。
岡山県では、車両写真は「斜め前方」「真横」「斜め後方」に加え、ナンバープレートが鮮明に読めること、そして「産業廃棄物収集運搬車」の表示(マグネットシート等)の文字サイズまで厳格にチェックされます。
「車体に合成写真で文字を入れる」のは絶対NGです。必ず実物を貼り付けて撮影してください。審査官は画像加工の痕跡を見抜きます。
【回避策のまとめ】
- 車検証の精査: 「用途」「最大積載量」「備考欄(土砂禁など)」を申請前に行政書士に見てもらう。
- 契約書の確認: 駐車場の賃貸借契約書が有効か、使用目的に問題がないか確認する。
- 写真のクオリティ: スマホではなくデジカメで、明るい場所で撮影する。マグネットシートの文字サイズ(5cm以上、3cm以上)を定規で測ってから作る。
まとめ:不許可リスクをゼロにするために
産業廃棄物収集運搬業許可の申請において、不許可になる理由は「運が悪かったから」ではありません。ほとんどの場合、「事前の確認不足」か「正直な申告の欠如」が原因です。
- 欠格要件: 過去の傷を隠さず、事前にチェックする。
- 財務要件: 決算書をごまかさず、必要な診断書を用意する。
- 施設要件: 現場の実態と書類を完全に一致させる。
これらを自社だけで完璧に行うには、膨大な知識と経験が必要です。少しでも不安な要素がある場合、あるいは「この場合はどうなんだろう?」という疑問がある場合は、申請書を提出する前に、専門家である行政書士にご相談ください。
私たち行政書士は、不許可になるリスクを事前に洗い出し、「これなら通る」という確実なロジックを組み立ててから申請を行います。それは、御社の大切な事業計画を守るための、最も確実な投資となるはずです。
