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岡山県の産業廃棄物収集運搬業許可|審査基準のポイント(人的要件・財務要件・施設要件)

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大道一成(行政書士)

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「許可を取りたいが、手引きを見ても専門用語ばかりで、自社が要件を満たしているかわからない」

「過去に赤字決算があったが、許可は下りるのか?」

「車両の写真はスマホで撮ったもので良いのか?」

このようなご相談を日々いただきます。産業廃棄物収集運搬業の許可申請は、単に書類の空欄を埋めれば終わるものではありません。行政庁(岡山県、岡山市、倉敷市など)は、提出された書類を通じて「この事業者は、廃棄物を適正かつ安全に運び続ける能力があるか?」という実質的な審査を行います。

ここで重要になるのが「人的要件」「財務要件」「施設要件」の3つの柱です。これらは一つでも欠ければ不許可となりますし、解釈を誤ると補正(修正)の嵐となり、許可取得まで数ヶ月の遅れが生じることもあります。

1. 【人的要件】欠格事由の回避と講習会の受講|「誰が」事業を行うのか?

産業廃棄物処理業は、不法投棄や不適正処理が環境汚染に直結するため、事業を行う「人(法人および役員)」に対して非常に厳しい適格性が求められます。これが「人的要件」です。

岡山県の審査窓口において、まず最初にチェックされるのがこの項目であり、ここがクリアできていなければ、どれだけ資金があっても、どれだけ立派なトラックを持っていても、申請自体が受け付けられません。ここでは、形式的な書類チェックの裏にある「行政が見ているポイント」と、絶対に外せない講習会の要件について、詳細に解説します。

許可取得の絶対条件「欠格要件」の壁

「欠格要件(けっかくようけん)」とは、廃棄物処理法第14条第5項第2号に定められた、「許可を与えてはいけない人」のリストです。申請者である法人はもちろん、その法人の役員(取締役、監査役)、相談役、顧問、そして5%以上の株式を持つ株主、さらには政令で定める使用人(支店長や営業所長など)の全員が対象となります。

具体的には、以下のような事項に一つでも該当すると不許可となります。

  • 法違反による刑罰: 廃棄物処理法違反はもちろん、暴力団対策法、刑法(傷害、暴行、脅迫など)の罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行が終わってから5年を経過していない者。
  • 許可の取消し: 過去に産業廃棄物処理業の許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者。
  • 暴力団関係: 暴力団員、または暴力団員でなくなってから5年を経過していない者(※暴力団員がその事業活動を支配する者も含む)。
  • 心身の故障: 精神の機能の障害により、廃棄物処理業を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者。

【岡山県の実務における注意点】

特に注意が必要なのは、「罰金刑」の扱いです。通常の交通違反(青切符)程度なら問題ありませんが、飲酒運転や悪質な人身事故などで禁錮刑以上になった場合や、廃棄物処理法違反で罰金刑を受けた場合はアウトです。

また、意外と見落としがちなのが「役員の変更漏れ」です。登記事項証明書(履歴事項全部証明書)に記載されている役員の中に、既に退職しているのに登記を抹消していない人が残っている場合、その「辞めたはずの人」も審査対象になります。もしその人と連絡が取れず、欠格要件に該当していない旨の誓約書に実印をもらえなければ、申請はストップします。申請前には必ず登記簿を確認し、現況と一致しているかを確認してください。

講習会修了証の有効性と受講計画

人的要件のもう一つの柱が、「公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター(JWセンター)」が実施する講習会の修了です。

許可申請を行うには、法人の代表者または役員(政令使用人を含む)が、この講習会を受講し、修了試験に合格している必要があります。

  • 新規許可講習: 新しく許可を取る場合。有効期限は5年。
  • 更新許可講習: 既に許可を持っていて更新する場合。有効期限は2年。

【よくある勘違いとトラブル】

「昔、特別管理産業廃棄物の講習を受けたから大丈夫だろう」という勘違いがよくあります。しかし、「普通の産業廃棄物」と「特別管理産業廃棄物」はコースが異なります。今回申請する区分に対応した修了証が必要です。

また、現在、講習会は非常に混み合っており、岡山県近隣の会場(岡山、広島、兵庫など)は数ヶ月先まで満席ということも珍しくありません。

「書類は全部揃ったのに、講習会の予約が取れなくて3ヶ月待ち」という事態を避けるため、許可取得を決意したら真っ先に講習会の予約を入れてください。現在はオンライン受講も可能になっていますが、パソコンの環境設定や顔認証システムへの対応が必要ですので、早めの準備が肝心です。

組織としての遵法体制の構築

審査官は書類審査だけでなく、窓口でのやり取りを通じて「この事業者は法律を守る気があるか?」を見ています。

例えば、定款の事業目的に「産業廃棄物収集運搬業」の記載があるかどうかも確認されます。

また、社内の管理体制として、誰がマニフェスト(産業廃棄物管理票)を管理し、契約書を作成するのかといった実務フローが頭に入っているかも重要です。丸投げ体質ではなく、役員自らが責任を持って廃棄物処理法を理解している姿勢を示すことが、スムーズな許可取得への近道となります。

2. 【財務要件】経理的基礎の証明と債務超過時の対応|「資金」は続くか?

産業廃棄物の収集運搬は、一度引き受けた廃棄物を処分場まで確実に運ぶ責任があります。もし事業者が資金不足で倒産し、廃棄物を積み込んだままトラックが放置されたらどうなるでしょうか?不法投棄と同等の環境リスクが発生します。

そのため、許可審査では「事業を継続して行うに足りる経理的基礎を有していること」が厳しく問われます。これは単に「銀行口座にお金があるか」ということではありません。決算書に基づいた厳格な基準が存在します。

岡山県がチェックする「3つの決算指標」

申請には、直近3期分の決算書(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)の添付が必要です。審査担当者は、主に以下のポイントを見ています。

  1. 自己資本(純資産)の額: 資産から負債を引いた額がプラスかマイナスか。
  2. 当期純利益(経常利益): 直近の会計年度で利益が出ているか。
  3. 3期連続の収支状況: 一時的な赤字か、慢性的な赤字か。

最も理想的なのは、「直近の決算で当期純利益が出ており、かつ純資産もプラスである」状態です。この場合は、決算書をそのまま提出すればスムーズに審査を通過します。

しかし、多くの事業者は、節税対策や設備投資、あるいはコロナ禍の影響などで赤字になっている期があるものです。岡山県では、財務状況が悪化している場合、追加資料の提出を求められます。

パターン別:追加資料が必要になるライン

ご自身の会社の決算書(直近)を見て、以下のどのパターンに当てはまるか確認してください。

  • 【パターンA】直近は黒字だが、累積赤字で「債務超過」になっている場合
    • 状況: 頑張って利益は出したが、過去の借金が多く、純資産の部がマイナスになっている。
    • 対策: 基本的には「今後どのように債務超過を解消するか」を記載した「覚書(または理由書)」や、今後5年程度の「収支計画書」の提出で認められるケースが多いです。「毎年これだけの利益を出して、〇年後には債務超過を解消します」という道筋を数字で示します。
  • 【パターンB】直近が赤字で、かつ「債務超過」になっている場合
    • 状況: 直近も赤字で、資産よりも借金の方が多い。これは「経理的基礎が危うい」と判断される典型的なケースです。
    • 対策: 非常にハードルが高くなります。この場合、単なる自社作成の計画書では認められません。中小企業診断士または公認会計士による「経理的基礎を有することの診断書(評価書)」の添付が必須となります。

この診断書は、専門家が御社の財務内容を分析し、「現状は厳しいが、この改善計画を実行すれば事業継続は可能である」と第三者の視点で保証するものです。診断書の作成には、決算書の分析だけでなく、社長へのヒアリングや詳細な事業計画の策定が必要となるため、作成費用(相場で5万〜15万円程度)と時間がかかります。

納税証明書の重要性と未納時の対応

財務要件には、税金の納付状況も含まれます。申請時には以下の納税証明書の提出が必要です。

  • 法人税(国税):その1(納税額等証明用)
  • 消費税及地方消費税(国税):その1(納税額等証明用)
  • 岡山県税(法人事業税、県民税など):全税目に滞納がないことの証明

ここで重要なのは、「未納・滞納がある状態では申請が受理されない」ということです。もし滞納がある場合は、申請前に完納する必要があります。分納の相談を行政としている場合でも、原則として「滞納がないことの証明」が出せなければ許可申請はできません(※例外的な事情がある場合は要相談ですが、基本的には完納が条件です)。

新規設立法人(決算期未到来)の場合

まだ最初の決算を迎えていない新設法人の場合はどうなるでしょうか?

この場合は、「開始貸借対照表(会社設立時の財産状況)」と「今後1年間の収支予算書」を提出します。

ここで重要なのは、資本金の額や資金調達の方法が明確であることです。収支予算書には、産業廃棄物収集運搬業でどれくらいの売上を見込み、ガソリン代や人件費がいくらかかり、最終的に利益が出る計画になっているかを論理的に記載する必要があります。「とりあえず書いておけばいい」というものではなく、車両の維持費や処分業者への支払予定額など、現実的な数字に基づいているかがチェックされます。

このように、財務要件は単に数字のチェックだけでなく、「事業を継続できる根拠」をプレゼンテーションする場でもあります。特に債務超過がある場合は、申請前の準備段階で診断士との連携が不可欠となるため、早めに私たち行政書士にご相談いただくことを強く推奨します。

3. 【施設要件】車両・容器の適合性と表示義務|「何で」運ぶのか?

「施設要件」と聞くと、処分場のような巨大な施設をイメージするかもしれませんが、収集運搬業(積替え保管なし)の場合の「施設」とは、主に「運搬車両(トラック等)」と「運搬容器(ドラム缶等)」、そして「駐車場(車庫)」のことを指します。

産業廃棄物は、その性状(固形、泥状、液状)に応じて、飛散したり流出したりしない適切な方法で運ばなければなりません。審査では、「運ぼうとする廃棄物の種類」と「車両・容器のスペック」が適合しているかが徹底的にチェックされます。

運搬車両の要件と車検証のチェックポイント

まず、使用する車両は、申請者(法人)が使用権限を持っている必要があります。

車検証の「使用者」欄が、申請する法人名義になっていることが原則です。

※リース契約の場合は、車検証の「使用者」が法人名になっていればOKですが、レンタカーのような一時的な使用は認められません。

【廃棄物の種類と車両の適合性】

「何を運ぶか」によって、使える車両が制限されます。

  • がれき類、木くず、金属くず(固形物):ダンプトラック、平ボディトラック、脱着装置付コンテナ車(アームロール)など。※平ボディやダンプの場合、走行中に廃棄物が飛び散らないよう、「飛散防止ネット」や「シート」を備え付けていることが必須条件です。
  • 汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ(液状・泥状):原則として、吸引車(バキュームカー)やタンク車など、密閉できる車両が必要です。※平ボディ車やバン型車(ハイエース等)で運ぶ場合は、後述する「密閉容器」を使用することで許可される場合があります。

【土砂禁ダンプの注意点】

車検証の備考欄に「土砂等運搬禁止」と記載されているダンプ(深ダンプなど)を使用する場合、「がれき類」「ガラスくず・コンクリートくず及び陶磁器くず」「鉱さい」の申請には注意が必要です。これらは土砂と混同されやすいため、申請時には「比重の軽い木くずや廃プラスチック類専用として使用する」といった説明や、積載物の限定が必要になることがあります。

運搬容器の選定と飛散流出防止措置

車両だけでは運べないもの(液状物や細かい粉状のもの)については、適切な「容器」の写真と仕様説明が必要です。

  • ドラム缶(オープンドラム・クローズドドラム): 廃油や汚泥に使用。腐食していないか、蓋が確実に閉まるかがポイントです。
  • フレコンバッグ(フレキシブルコンテナ): 廃プラスチック類や木くずなどに使用。破れがないか確認されます。
  • プラスチックコンテナ(衣装ケース等は不可): 蓋付きで強度が十分にある工業用コンテナなどが望ましいです。

審査では、これらの容器を「どのように車両に固定するのか(ロープ、ベルト等)」まで問われます。「ドラム缶を積みます」だけでなく、「ドラム缶をロープで固縛し、転倒防止措置を講じる」という具体的な運用ルールを説明できなければなりません。

写真撮影の「鉄則」と表示義務(マグネットシート等)

申請書類の中で、最も補正(撮り直し)が多いのが「写真」です。岡山県の審査基準を満たすためには、以下のルールを厳守して撮影する必要があります。

1. 車両写真のアングル

  • 斜め前方(右側・左側): ナンバープレートと車体の全体像が写っていること。
  • 側面(真横): 車体の形状と、ドア等に表示した「産業廃棄物収集運搬車」の表示が読めること。
  • 後面: ナンバープレートと荷台の様子が分かること。

2. 産業廃棄物収集運搬車の表示(マニフェスト記載事項)

車両の両側面には、以下の情報を「見やすいように鮮明に」表示しなければなりません。

  • 「産業廃棄物収集運搬車」の文字: 文字の高さ5cm以上。
  • 「氏名又は名称(会社名)」: 文字の高さ3cm以上。
  • 「許可番号(下6桁以上)」: 法律上は義務ではありませんが、現場での識別のために記載することが推奨されています(※岡山県の手引き等を確認)。

多くの事業者は、取り外し可能なマグネットシートを作成して対応します。写真を撮る際は、このマグネットシートを貼り付けた状態で撮影します。画像加工(合成)は厳禁です。また、文字が小さすぎて写真で判読できない場合も再提出となります。

駐車場の使用権原(車庫証明との整合性)

最後に、車両を保管する場所(車庫)の使用権限も確認されます。

自社所有地であれば「土地の登記事項証明書」、賃貸であれば「賃貸借契約書」の写しが必要です。

ここでよくあるトラブルが、「契約書の更新漏れ(期間切れ)」や「使用目的が『資材置き場』になっていて車両保管が含まれていない」ケースです。

また、運送業(緑ナンバー)の許可も持っている場合、運送業法上の車庫と産廃の車庫が重複していても問題ないかなど、他法令との整合性も確認しておく必要があります。

まとめ:審査基準を「点」ではなく「線」で理解することが許可への近道

産業廃棄物収集運搬業許可(積替え保管なし)の審査基準は、一見すると「書類集め」に見えますが、その本質は「適正に事業を継続できる能力の証明」です。

  • 人的要件: 法令を遵守し、責任を持って運営できる組織か?
  • 財務要件: 明日潰れてゴミを放置するような会社ではないか?
  • 施設要件: そのゴミを安全・確実に運べる装備を持っているか?

これらはすべて繋がっています。

私たち行政書士は、単に書類を作るだけでなく、御社の現状がこれらの基準にどう適合しているかを翻訳し、審査官に「安心」を提供することで、許可という結果を勝ち取ります。

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